リアルオプションはオプション・プライシングの考え方を利用した企業価値、事業価値の評価法である。NPV法あるいはIRR(内部収益率)法に比べて柔軟な評価を行うことが可能となる。この柔軟性とは、評価のタイミングと企業活動の不確実性をNPV法に比べていっそう明確に認識し、評価に反映することができるという意味である。企業は突き詰めるところ新たなキャッシュを生み出す機能装置に還元される。しかしその機能装置は稼動するに当たって必ずしも常に確実な結果を生むわけではない。NPV法で計算に利用する将来にわたるキャッシュフローはあくまでも計画であって保証されるものではない。いちおう確定的な数値とみなして現在価値に引き直せば企業価値となるのではないかと考えているだけである。しかし現実は不確実性の中にある。その不確実性を取り入れ、確率的な計画を考えるところからリアルオプションはスタートする。分かりやすくするために、具体的な例で説明してみよう。
いま、当面つぎのような事業計画の会社が出資を募っている。稼動すれば来1期はゼロ、2期は赤字だが、3期目から黒字転換する計画である。この会社の資本コストは0.25である。
<事業計画>
| 期 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
| CF | 0 | -5 | 10 | 25 | 50 |
6期目以降は5期の収益50が0.03の成長率で伸びるという予想も立てられている。要望されている出資の額は125であるが、出資の時期については交渉の余地があるとする。この会社の要請に応じるべきであろうか。もし応諾するとすればどのような条件をつけることになろうか。
単純に会社の計画をNPV法によって評価を行えば、この会社のCFを継続価値を含めてのNPVとして求めると105.25となり、出資要請額125であるから差引き105.25-125=-19.75である。この投資家の評価はマイナスとなるため会社の要望には応えられないというのが第一の判断となる。
<シナリオ1>
| NPV | 期 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
| -20 | CF | -125 | 0 | -5 | 10 | 25 | 50 |
しかし、出資時期の件について問い合わせると、実は125のうち会社の立上げに絶対必須な額は30であり、残りの95は1期か2期に事業が本格化する際に必要となるものであった。そしてその追加の出資時期は事業の状況によって今0期末に決めたいという内容であった。
そこで出資時期の変化に応じてNPVの計算を追加する。1期目に95が必要となった場合、
<シナリオ2>
| NPV | 期 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
| -1 | CF | -30 | -95 | -5 | 10 | 25 | 50 |
投資家のNPVは-0.75となり、まだ応諾できないという結論となる。次に2期目に出資が要請される場合、
<シナリオ3>
| NPV | 期 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
| 14 | CF | 0 | 0 | -100 | 10 | 25 | 50 |
投資家のNPVはプラスに転じ、14.45となって出資要請を受けることになる。
<シナリオ4>
ふたつのシナリオ2と3はどちらになるかは不確実であるので、それぞれ0.5の確率で起きると考えよう。投資家のNPVの期待値は(-0.75)×0.5+(14.45)×0.5=6.85となって、出資要請に応じるという検討余地が生まれる。
単純なNPV法では、シナリオ1と2では出資要請を断り、シナリオ3で応諾するという判断を行うこととなるが、確定的に計画を扱うNPV法に複数のシナリオを導入し、わずかに確率的な取り扱いを加えた結果、出資を検討する余地が生まれた。リアルオプション法は、計画を確定的に捉えるNPV法に不確実性を取り入れ、柔軟な意思決定を支援しようとするものである。どこがオプションなのだろうか。それはつぎのように考えるからである。
不確実性を取り入れたことによる評価の変更点は、当初125の一括出資判断であったものが、30の出資判断に変わった点である。そして二つの確率的なシナリオが検討のテーブルに上がった。しかし現実はシナリオは無限にあると考えてよいのではないだろうか。もしかすれば幸運なことにプラスのCFは増加するかもしれないし、あるいは逆に減少するかもしれない。追加投資はもっと増額して要望されるかもしれないし、不要となって減額されるかもしれない。1期あるいは2期の間に想定できない様々な事柄が発生しうるであろう。いま判断すべきことは必ず必要な30の投資を行うべきかどうかである。
直面する30の投資を判断するために評価すべきものを考えると、今後将来の所定の(権利行使)時期に95の投資によって現在105.25のNPVを生む事業活動を購入する権利となっている。現在105.25のNPVが計画されているが、将来はこの値がどうなっているかは分からない。上がるかもしれないし、不幸なことに下がっているかもしれない。下がっていれば権利行使を諦めればよい。30の投資は将来95を追加出資する権利(オプション)を購入するための対価と考えられる。あるいは現在求められる95の出資を延期する権利の対価とも考えられる。これがリアル(実物)オプションと呼ばれることの意味である。
(議論を簡単にしヨーロピアンコールオプションを利用するために追加投資=権利行使時期を確定的に考えておこう。)
安全資産利子率が0.07、権利行使時期が1期、ボラティリティが0.5とすれば、ブラック・ショールズ式を利用して、現在価格105.25、権利行使価格95のコールオプションの価格は28.57となって、この場合購入価格30より下回るので、投資しないことになる。
権利行使時期が2期とすれば、コールオプションの価格は38.72となって、この場合購入価格30を上回るので、投資する判断となる。
従って、出資交渉は、ます当面30の出資要請に絞り、95の追加投資のために2期での出資期限を確保する必要があることになる。その前提が確保されることが検討の基本条件となろう。
まず、上記の説明の事例をエクセルの計算シートであげよう。
計算実行例(エクセルシート)
いろいろ数値を変えて試されるとよい。
リアルオプションの適応にあたっての困難は、原資産を金融資産とするとき以上にボラティリティ決定の難しさにある。上記の例では特に断りも無くボラティリティ0.5を指定したが、この根拠を求めることはなかなか難しい。実証上の数値を積み重ね、ある程度の幅をもって算定することとなる。
不確実なものをオプションとして捉えるならばさまざまなバリエーションが可能であって、いろんな形式のリアルオプションが考案されている。リアルオプションの理解を深めるために、代表的な事例とその意味合いを紹介しよう。