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伊藤積分(債券価格公式)

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伊藤積分の公式

形式的な微分形の伊藤の補題から一歩遡って、ウィーナー過程の期待値操作に伴う有用な公式をいくつか挙げておこう。特に金利の分析を始めると、多重積分を避けて通れなくなり、そこにウィーナー過程が含まれることも多い。計算にあたって知っていると便利な公式を紹介しておく。以下では、標準ウィーナー過程をWt〜 N(0,t)、W0=0、題意に添った区間内で連続な非確率関数をf=f(t)とする。

まずウィーナー過程が積分の核となるもの。

<公式1:期待値>

伊藤積分公式1

<公式2:分散>

伊藤積分公式2

通常の連続関数を確率積分するもの。

<公式3:期待値>

伊藤積分公式3

<公式4:分散(等長性)>

伊藤積分公式4

証明は確率積分のもともとの定義に立ち戻って行われるものが多いので、数学のテキストに委ねよう。本来、公式を利用するに当たっては、前提となる諸条件を確認する必要がある。そのためには公式の成り立ち具合を知っておくことが望ましいが、おおよその当りをつけるにはまずだまって適応することも当初のアプローチとしてはあると思う。力試しに証明に取り組まれるのもよいだろう。

リスク中立確率による債券価格公式

ではこれらの公式を利用した例題として、ゼロクーポン債の価格公式を導いてみよう。その段取りは次のとおりである。

まず、ショートレートを利用した債券価格の公式はリスク中立確率の下で、

債券価格公式

であった。そして、一般に確率変数Yが正規分布に従い、E(Y)=μ、V(Y)=σ2であるなら、

E(e-Y)=exp{-μ+σ2/2}

となることは簡単に求められる。特性関数から類推されればよい。正規分布の特性関数の項を参照されたい。rsおよびrsを積分したものは正規分布であるから、この期待値の式が利用できる。従って債券価格の公式はリスク中立確率の下で、

債券価格公式2

とすることができる。したがって、期待値と分散が得られれば債券価格の公式が求められることになる。この手法は偏微分方程式を用いないリスク中立確率と伊藤積分による解法となる。

ホー・リーモデル

ホー・リーモデルで試みよう。ホー・リーモデルはリスク中立確率の下での金利の微小変化を、

drttdt+sdXt

で表した。最終的に領域[t,T]で考えたいので、いったんtを止めて、t≤ u≤ Tとなるuを定義しておく。微小変化の式を[t,u]で積分すると、

ホーリーモデル

となる。本来X0=0であるが、ここではうまく調整してXt=0とできるとした。そしてこのruを[t,T]で積分する。

ホーリーモデル2

となる。金利の微積分の項を思い出していただいて、

金利積分公式

なので、公式1を利用して、確率項を消去し、

ホーリーモデル期待値

となる。そして、分散の性質と公式2を利用して、

ホーリーモデル分散

であるから、

ホーリーモデル伊藤積分解

となって、いっきに債券価格公式が求められた。

また、あまり丁寧に触れることをしなかったために、どのように求めるのか興味を持たれた方もおられるだろうが、HJMモデルで定義した計算用の式、

HJMモデル式

は、ここで上げた公式を利用することが近道である。たとえばホー・リーモデルでは、

ホーリーモデル伊藤積分HJM解

となることは計算するまでもない。

ハシェックモデル

続いてハシェックモデルでやってみよう。ハシェックモデルがリスク中立確率の下での金利の微小変化を、

drt=a(b-rt)dt+sdXt

と表した。この確率微分方程式は解くことができて、tを止めて、[t,u]で積分したものは、

ハシェックモデル式

となる。したがって、このruをさらに[t,T]で積分すると、

ハシェックモデル式2

第2項はふつうに積分する。第3項は形式的にディリクレ公式を使って、

ハシェックモデル式3

となるので、

ハシェックモデル式4

である。ホー・リーモデルと同様に、期待値と分散を求めよう。公式3を使えば、

ハシェックモデル期待値

は直ちに得られる。分散は公式4を使って煩雑な計算をすると、

ハシェックモデル分散

となって、

ハシェックモデル伊藤積分解

が求められた。

しかしリスク中立確率によるこの解法はruあるいは∫ruduが扱いやすい形式となるかどうかにかかることは理解できるだろう。そして通常この希望がかなえられることは稀でしかない。そのため、別項で繰り返した偏微分方程式を利用して、解析的に解けなければ数値的に解を求める手段に訴えることになる。

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