2006年度 武蔵野美術大学 造形学部 卒業制作

現代における万年筆の価値と手書きの意味 ―― 質問紙調査結果と個人的体験より

研究計画書

 

現代における万年筆の価値と手書きの意味 ―― 質問紙調査結果と個人的体験より

研究概要 (どのようなことを、どのような手段で明らかにするのか)
 
1.万年筆の歴史概観
―技術、プロダクト、道具、文化に果たした役割、市場の状況など多面的に
方法:主に文献による学習

2.万年筆の現状
―ボールペンなど万年筆以外の筆記具、PCなど他の筆記具の発達と関連しての変化をふまえて
方法:文献による学習、販売店での実地調査(見学、聞き取り)

3.万年筆愛好家への意識調査
―万年筆のどこに魅力を感じ、実際どのように使われているか(あるいは、コレクションされているか)
方法:質問紙調査(集計には「EXCELアンケート太閤」使用)

※質問紙調査のポイント
質問紙調査の対象を、今回は「愛好家」に絞ることにした。一般の人に広く万年筆について尋ねるような調査も必要かと思ったが、利用している人があまりにも少なく、この方法では、「使っていない」「持っていない」という回答ばかりがになると、容易に予想できる。そのため、万年筆が好きとわかっている人を対象に絞り、その人たちがどこに魅力を感じ、どのように万年筆を暮らしに取り込んでいるかを尋ねることにした。
計画意図 (なぜこの研究をしようと考えたのか:初めのアイデアからタイトルを決めるまで)
私は約20年病院で看護師として働いている。さまざまな事務手続きの電子化が進む一方で、患者に関する記録は手書きが多い。現在担当している病棟は精神科と緩和ケア病棟の2つであるが、この部署はどちらも、患者及びその家族の精神面での支援が多く、その経過を細かく記録しなければならない。よって、記録の量が非常に多い病棟である。昨年の秋、複雑な事情を持つ患者とかかわり、日々の面談結果を、管理職である自分がきちんと記録していく必要に迫られたのだった。これは非常に気の重い仕事で、珍しく仕事に行くのが心からつらくなった。そんな時、銀座の伊東屋で綺麗な色の使いやすそうな万年筆を見つけ、「これで記録を書いたら、少しは楽しくなるだろうか」と思い、買い求めたのだった。すると不思議なことに、書く内容はつらくとも、書くことそのものが楽しいと感じられた。何が楽しいのかといえば、まず新鮮だったのである。細いペン先からインクが出てきて、くっきりとした字が書ける。その字は、いつもの子どもっぽいくせ字ながら、なんとなく趣があるように見える。この体験以降、少しでも手書きを避け、PCを使って文章を書こうとしていた自分が、時には手書きがよいと思うようになった。可能な限りメールで済ませようとしていた友人、知人とのやりとりに、絵はがきを織り交ぜるようになった。そして、こうした変化が、自分の暮らしに潤いを与えてくれている。そんな実感があるのである。
この最初に買い求めた万年筆は、パイロットの「キャップレス」細字、オレンジ色の限定カラーであった。これ以後万年筆に非常に興味がわき、専門店に通い、関連の本を眺め、実際多数の万年筆を買い集めるようになる。同い年の夫も、同行するうち私以上にはまり、今は夫婦で休みのたびに、万年筆専門店などを訪ね歩き、同じ趣味を持つ人とも出会った。この過程で、私は、以下のような興味を持った。

・ 万年筆は現在の形になるまでに、長い歴史を持ち、さまざまな技術がそこに結集している。装飾も考え合わせると、総合芸術と言っても過言ではない。その歴史的変遷とはどのようなものだろうか。
・ 万年筆を愛する人たちは確実に存在している。その人たちはどのように万年筆を使っているのだろうか。さらには、万年筆の復権によって、日本の文化全体を見直そうという志を持つ人もいる。その人たちの、万年筆への思いも知りたい。
・ 特集記事や、単行本の出版など、万年筆がマスコミで取り上げられる機会が増えている。果たして、万年筆はメジャーな道具になるのか。

そもそも、PCの便利さをフルに活用している私たち夫婦が、万年筆での筆記に魅力を感じたこと自体に、興味を
ひかれた。今回の調査研究を通して、万年筆の魅力そのものを明らかにしていきたい。そして、それを同じ関心を持つ人
と共有したい。

―以上が、研究の動機であり、意図である。

 


質問紙調査協力依頼文

 

「万年筆に関する質問紙調査」 協力のお願い

 

平成18年6月23日

武蔵野美術大学造形学部通信教育課程芸術文化学科造形研究コース4年
藤江(宮子) あずさ

私は今、標記大学におきまして、卒業制作に取り組んでおります。今回私が選んだテーマは、「万年筆の過去、現在、未来を考える―万年筆を愛する人への質問紙調査を中心に(仮題)」と題した調査研究で、万年筆に関心のある方を対象に、質問紙調査へのご協力をお願いしております。

ご存じのように、万年筆は、ボールペンの普及、PCの発達といった、筆記具の変化により、その使用頻度が非常に減っております。昭和38年生まれの私にとって万年筆は、すでに日常的な筆記具ではありませんでした。それでも、入学祝いなどに万年筆をもらう経験もあり、「大人の筆記具」というイメージを持っていたものです。しかし、さらに下の世代になると、このような機会もさらに稀なものでしょう。筆記具全体を見れば、万年筆は出番が減る一方に見えます。
けれども、ひょんなことから万年筆に興味を持ち、いろいろと調べてみると、万年筆を取り巻く状況は、「凋落」の二文字で語れないものを感じるのです。市場としてみれば、高級品志向、伝統工芸品の見直しなどから。文化論的には、手仕事の復権、アナログ回帰。こうした要素が相まって、万年筆が見直される素地はできつつあるように思えるのです。
以下は、今回の研究にあたり、私がその動機を綴った計画書の一部です。

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私は約20年病院で看護師として働いている。さまざまな事務手続きの電子化が進む一方で、患者に関する記録は手書きが多い。現在担当している病棟は精神科と緩和ケア病棟の2つであるが、この部署はどちらも、患者及びその家族の精神面での支援が多く、その経過を細かく記録しなければならない。よって、記録の量が非常に多い病棟である。昨年の秋、複雑な事情を持つ患者とかかわり、日々の面談結果を、管理職である自分がきちんと記録していく必要に迫られたのだった。これは非常に気の重い仕事で、珍しく仕事に行くのが心からつらくなった。そんな時、銀座の伊東屋で綺麗な色の使いやすそうな万年筆を見つけ、「これで記録を書いたら、少しは楽しくなるだろうか」と思い、買い求めたのだった。すると不思議なことに、書く内容はつらくとも、書くことそのものが楽しいと感じられた。何が楽しいのかといえば、まず新鮮だったのである。細いペン先からインクが出てきて、くっきりとした字が書ける。その字は、いつもの子どもっぽいくせ字ながら、なんとなく趣があるように見える。この体験以降、少しでも手書きを避け、PCを使って文章を書こうとしていた自分が、時には手書きがよいと思うようになった。可能な限りメールで済ませようとしていた友人、知人とのやりとりに、絵はがきを織り交ぜるようになった。そして、こうした変化が、自分の暮らしに潤いを与えてくれている。そんな実感があるのである。
この最初に買い求めた万年筆は、パイロットの「キャップレス」細字、オレンジ色の限定カラーであった。これ以後万年筆に非常に興味がわき、専門店に通い、関連の本を眺め、実際多数の万年筆を買い集めるようになる。同い年の夫も、同行するうち私以上にはまり、今は夫婦で休みのたびに、万年筆専門店などを訪ね歩き、同じ趣味を持つ人とも出会った。この過程で、私は、以下のような興味を持った。

  1. 万年筆は現在の形になるまでに、長い歴史を持ち、さまざまな技術がそこに結集している。装飾も考え合わせると、総合芸術と言っても過言ではない。その歴史的変遷とはどのようなものだろうか。
  2. 万年筆を愛する人たちは確実に存在している。その人たちはどのように万年筆を使っているのだろうか。さらには、万年筆の復権によって、日本の文化全体を見直そうという志を持つ人もいる。その人たちの、万年筆への思いも知りたい。
  3. 特集記事や、単行本の出版など、万年筆がマスコミで取り上げられる機会が増えている。果たして、万年筆はメジャーな道具になるのか。

 

そもそも、PCの便利さをフルに活用している私たち夫婦が、万年筆での筆記に魅力を感じたこと自体に、興味をひかれた。今回の調査研究を通して、万年筆の魅力そのものを明らかにしていきたい。そして、それを同じ関心を持つ人と共有したい。
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以上、研究の趣旨をご理解の上、ご協力をお願いできれば幸甚です。対象は、広く「万年筆に関心がある方」で、「万年筆が好き」あるいは「万年筆を使っている」方であれば、それ以外の条件はありません。いささかマニアックな設問もありますが、可能な範囲でご回答いただければかまいません。

なお、本研究は性格上、プライバシーに関する設問がいくつか設定されております。倫理的配慮は十分に行い、本研究以外の用途に決して用いないことをお約束いたします。その上で、回答することに抵抗がある場合は、その箇所は空欄としていただいて結構です。

また、ご協力いただいた方には、ご希望により、完成した論文を、責任持ってお送りいたします。紙媒体、あるいはPDF版いずれも可能です。

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それでは、次ページ以降の内容をご確認の上、以下の方法でご記入をお願いいたします。

  1. 選択肢については、以下のいずれかの方法でお願いします。
  2. あてはまる文の末尾に○印をする(「まる」と入力すると、変換候補に「○」が出てきますので、それを確定してください)
  3. あてはまるもの以外を削除する

 

  1. 記述は、質問文以下の空白の行に記載してください。回答の結果、レイアウトがくずれても、修正は無用です。

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回答後の質問紙は、以下のアドレスにご返送くださいませ。また、不明の点があれば、お問い合わせください。

E-mail miyako@parkcity.ne.jp

質問紙の内容

「万年筆に関する質問紙調査」

T あなたご自身についておたずねします。                                  

【問1】 性別を教えてください。
1. 女性
2. 男性

【問2】 現在の年齢を教えてください。
(????????????????????????? )歳

【問3】 差し支えない範囲で、現在の仕事、職歴を教えてください。

 

 

【問4】 ご家族についてうかがいます。現在同居している方に○をつけてください。(複数回答可)

  1. 同居者なし
  2. 配偶者
  3. 子供
  4. 配偶者の親
  5. 兄弟姉妹
  6. その他(具体的に:

【問5】 スケジュール管理、タイムマネジメントにはどのような手帳をお使いですか。(複数回答可)

  1. 使っていない
  2. システム手帳(バイブルサイズ)
  3. システム手帳(ミニ6穴)
  4. システム手帳(ミニ5穴)
  5. システム手帳(A5)
  6. 電子手帳単独(PC同期せず) (機種:
  7. 電子手帳&PC(機種:
  8. その他(具体的に:

【問6】 仕事、プライベート問わず、PCを使う機会がありますか。あてはまるもの1つに○をつけてください。

  1. まったく使わない
  2. めったに使わない
  3. 週に1〜2回は使う
  4. 毎日〜ほぼ毎日使う
  5. その他(具体的に:

【問7】 【問6】で2〜5を選んだ方にうかがいます。PCの用途を教えてください。(複数回答可)

  1. 書類作成
  2. メール、インターネット
  3. 個人のブログまたはサイトの作成
  4. スケジュール管理
  5. 画像の整理
  6. CG製作、デザインなど創作活動
  7. その他(具体的に:

【問8】 あなたは自分の字について「下手だ」「子どもっぽい」などのコンプレックスがありますか。あてはまるもの1つに○をつけてください。

  1. ない
  2. あまりない
  3. どちらともいえない
  4. 少しある
  5. ある
  6. その他(具体的に:

【問9】 【問8】で2〜6を選んだ方にうかがいます。コンプレックスの内容を具体的に教えてください。

 

【問10】 自分が万年筆で書いた文字について、あてはまるもの1つに○をつけてください。

  1. 万年筆で書いた文字の方が下手に見える
  2. 万年筆で書いた文字の方が上手に見える
  3. うまい下手にかかわらず、万年筆の方が味のある字が書ける気がする。
  4. 筆記具による変化は感じない
  5. その他(具体的に:

 

II お持ちの万年筆とそのご利用についてうかがいます。                          

【問11】 あなたは万年筆を何本持っていますか。
(????????????????????????? )本

【問12】 上記のうち、国産の万年筆は何本ですか。
(????????????????????????? )本

【問13】 現在お持ちの万年筆を具体的に列挙してください。(わかればペン先の太さも教えてください)

 

 

 

【問14】 万年筆を仕事で使う機会はありますか。あてはまるもの1つに○をつけてください。

  1. ない
  2. ほとんどない
  3. どちらともいえない
  4. 時々ある
  5. ある
  6. その他(具体的に:

【問15】 【問14】で2〜6を選んだ方にうかがいます。どのような場合に使いますか。

 

 

【問16】 万年筆をプライベートで使う機会はありますか。あてはまるもの1つに○をつけてください。

    1. ない
    2. ほとんどない
    3. どちらともいえない
    4. 時々ある
    5. ある
    6. その他(具体的に:

【問17】 【問16】で2〜6を選んだ方にうかがいます。どのような場合に使いますか。

 

 

 

【問18】 インクは何をお使いですか。メーカー、色、カートリッジ・ボトルの別を教えてください。

 

【問19】 万年筆を使う際、紙には気を遣いますか。あてはまるもの1つに○をつけてください。

  1. 気を遣わない
  2. ほとんど気を遣わない
  3. どちらともいえない
  4. 少し気を遣う
  5. 気を遣う
  6. その他(具体的に:

【問20】 【問19】で2〜6を選んだ方にうかがいます。具体的に、どのような紙を使いますか。

 

 

【問21】 外出時、万年筆を持ち歩いていますか。あてはまるもの1つに○をつけてください。

  1. 持ち歩かない
  2. ほとんど持ち歩かない
  3. どちらともいえない
  4. たいてい持ち歩いている
  5. 常に持ち歩いている
  6. その他(具体的に:

【問22】 【問21】で2〜6を選んだ方にうかがいます。持ち歩く万年筆は何本ですか。
(????????????????????????? )本

【問23】 【問21】で2〜6を選んだ方にうかがいます。お使いのペンケースを教えてください。(製品名など)

 

III 初めて所有した万年筆についてうかがいます。                              

【問24】 初めて所有した万年筆はどのようなものでしたか。

 

 

【問25】 それは何歳の時でしたか。
(???????????????????????? )歳

【問26】 その万年筆は、どのような形で入手しましたか。あてはまるもの1つに○をつけてください。

  1. 自分で購入した
  2. 人からもらった(どのような機会に、誰から:
  3. その他(具体的に:

【問27】 その万年筆は、どの程度使用しましたか。あてはまるもの1つに○をつけてください。

  1. 使わなかった
  2. あまり使わなかった
  3. どちらともいえない
  4. 時々使った
  5. 日常的に使った
  6. その他(具体的に:

【問28】 その万年筆は、現在はどうなっていますか。あてはまるもの1つに○をつけてください。

  1. 今は持っていない
  2. 今も持っているが、使っていない
  3. 今も持っていて、使うこともある
  4. あるかないかわからない
  5. その他(具体的に:

 

W 万年筆のお好みその他についてうかがいます。                             

【問29】 好きなメーカーを教えてください。自由に列挙し、特に好きなものの頭に◎をつけてください。

 

 

 

【問30】 好きな万年筆があれば教えてください。具体的な製品名でも、シリーズ名でもけっこうです。自由に列挙し、特に好きなものの頭に◎をつけてください。

 

 

 

【問31】 どの点を重視して万年筆を選びますか。(複数回答可。特に重視するものの頭に◎をつけてください)

    1. 軸のデザイン
    2. ペン先のデザイン
    3. 書き味
    4. 重さ
    5. 価格
    6. ブランド
    7. デザイナー
    8. 制作された国
    9. その他(具体的に:

【問32】 万年筆の購入に当たって、以下のような万年筆は購入しますか。(購入する可能性があれば○)

  1. デザインは気に入ったが、書き味が今ひとつ気に入らない。
  2. 書き味は気に入ったが、デザインが今ひとつ気に入らない。

【問33】 万年筆についての情報に関心がありますか。あてはまるもの1つに○をつけてください。

  1. ない
  2. ほとんどない
  3. どちらともいえない
  4. 少しある
  5. ある
  6. その他(具体的に:

【問34】【問33】 で2〜6を選んだ方にうかがいます。情報は主に何から入手しますか。(複数回答可)

      1. 一般誌(誌名:
      2. 文房具専門誌(誌名:
      3. インターネット(サイト、ブログ名:
      4. 書籍(書名:
      5. 販売店(店名:
      6. その他(具体的に:

【問35】 万年筆は主にどこで購入しますか。(複数回答可)

  1. 百貨店 (店名:
  2. インターネット(サイト名:
  3. 専門店(店名:
  4. その他(具体的に:

 
【問36】 万年筆の楽しみ方についてうかがいます。あてはまるもの1つに○をつけてください。

  1. 万年筆関連のサークルに入っている(サークル名:
  2. サークルに入っていないが、万年筆について話せる友人、仲間がいる(ネット含む)
  3. ひとりで楽しんでいる
  4. その他(具体的に:

【問37】 あなたにとって、万年筆の魅力とは、どのようなものですか。

 

 

 

 

 

【問38】 【問37】 で2〜6を選んだ方にうかがいます。その魅力を他の人に伝えたいと思いますか。あてはまるもの1つに○をつけてください。

  1. 思わない
  2. あまり思わない
  3. どちらともいえない
  4. 少し思う
  5. 思う
  6. その他(具体的に:

【問39】 万年筆が多くの人が使うことで、人の心や文化など、世の中に良い変化が生じうると思いますか。あてはまるもの1つに○をつけてください。

  1. 思わない
  2. あまり思わない
  3. どちらともいえない
  4. 少し思う
  5. 思う
  6. その他(具体的に:

【問40】 【問39】で2〜6を選んだ方にうかがいます。それはどのような変化ですか。

 

【問41】 本研究、あるいは万年筆について、何か思うことがあればご自由にお書きください。

 

 

 

 

 

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質問終了。多くの質問に対し、ご協力ありがとうございました。
よろしければ、お名前とご連絡先などをお知らせください。お知らせいただいた方には論文をお届けします。(原則として、E-Mailで、PDFファイルを発送。郵送ご希望の方は、その旨後記載ください)
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卒業制作要約

現代における万年筆の価値と手書きの意味 ―― 質問紙調査結果と個人的体験より

1. 動機と明らかにしたかったこと

万年筆は、ボールペンの普及、PCの発達といった、筆記具の変化により、その使用頻度が非常に減っている。昭和38年生まれの私にとって万年筆は、すでに日常的な筆記具ではなかった。それでも、入学祝いなどに万年筆をもらう経験もあり、「大人の筆記具」というイメージを持っていた。これがさらに下の世代になると、このような機会もさらに稀になる。筆記具全体を見れば、万年筆は出番が減る一方に見えると言えよう。
一方で、万年筆を取り巻く状況は、「凋落」の2文字で語れないものを感じる。市場としてみれば、高級品志向、「和ブーム」を基調とした伝統工芸品の見直しなどがあり、文化論的には、手仕事の復権、アナログ回帰の流れもある。こうした要素が相まって、万年筆が見直される素地はできつつあるように思える。
この過程で、私は、以下のような興味を持った。

  1. 万年筆は現在の形になるまでに、長い歴史を持ち、さまざまな技術がそこに結集している。装飾も考え合わせると、技術と総合芸術と言っても過言ではない。その歴史的変遷とはどのようなものだろうか。
  2. 万年筆を愛する人たちは確実に存在している。その人たちはどのように万年筆を使っているのだろうか。さらには、万年筆の復権によって、日本の文化全体を見直そうという志を持つ人もいる。その人たちの、万年筆への思いも知りたい。
  3. パソコン、携帯電話などが普及し、文字は入力するものとなってきている。このような状況で、手書きの文字は、どのような場面で使われ、どのような意味を持つようになっているのだろうか。
  4. 特集記事や、単行本の出版など、万年筆がマスコミで取り上げられる機会が増えている。果たして、万年筆はメジャーな道具になるのか。

これらの興味に沿って万年筆に関する研究を進めるについては、まず万年筆の歴史を概観するための文献学習を行った。続く本論は2本立てとし、万年筆の歴史を概観した後、万年筆ユーザーを対象に行った質問紙調査の結果報告に考察を行う。ただし、質問紙調査は、万年筆ユーザーが周辺に少なかったため、量的研究としてはサンプルが足りず、表面的なまとめになる恐れがあった。そのため、結果と合わせて、さらに私自身の個人的な思いを書き込みながら、まとめていきたい。

2. 今回の研究で分かったこと

1については、今では懐古趣味に映る万年筆であるが、1920年代から1940年代にかけては画期的な筆記具であり、多くのメーカーが最新の技術を競っていたことがわかった。
2、3については、質問紙調査の結果とその分析の項でまとめた。25人の回答者は、自由記述の形で、万年筆についての魅力を述べてくれた。そこには柔らかい独特の書き味といった筆記具としての良さや、モノと知識をコレクションする楽しみなどさまざまな要素が出てきたが、手紙を通じての人とのつながりや、精神的な安定、思考の活性化など、モノ以上の意味を見いだしている印象があった。そしてそれゆえ、その普及によって、何かが変わると信じさせる魅力があると感じた。
4については、話題になる機会が増えているのは確実であろう。今回の研究にあたっては、多くの雑誌、書物、サイトにあたった。ひとつひとつの引用はしないが、万年筆についての書物や雑誌、個人サイトを見ると、万年筆を人と人との心をつなぐ道具として、その普及・復権を広い意味での人間らしい世の中の回復としてとらえている文章が多い。私自身も、日頃PCでの文章作成がメインでありながら、万年筆での手書きを心のゆとりを生むものとして楽しんでいるところがある。
世界でも有数の万年筆コレクターとして知られるすなみまさみちは、自身が監訳した「Fountain Pens―万年筆 Vintage and Modern」という書物のあとがきで、以下のように述べている。
「たとえば『手ごころ』を加えるということばがある。これはまさに万年筆のためにあることばではないだろうか。柔軟にして剛直、ペン先のしなやかさは加減しないと割れてしまう。インクは常に新鮮なものを補給しなければならない。大胆にして精密、つまり手のかかるものに対する気配りが今必要なのだ。ある大脳生理学の研究でも万年筆の柔軟なタッチがボールペンなどの硬筆筆記具に比べて、脳波の働きを活発にするという報告もある。ワードプロセッサーや進化するコンピュータ世代だからこそ、発想の過程は万年筆でありたい」引用-5)
これは、多くの万年筆ファンが漠然と感じている魅力ではないだろうか。一部の熱狂的ファンはこれからもいるだろうし、需要は完全にはなくならない。そして、日本語を使う力が低下している現状への反省から、手書きや音読を見直す流れもある。参考5)少なくとも、「爆発的なブームも来ないかもしれないが、なくならなることはないだろう」という感触を得た。

3. 今回の研究で分からなかったこと

一方、今回の研究ではわからなかったこともたくさんある。万年筆の現状と展望については、流通している状況を示す指標が得られず、時代的変遷を数値で追うことができなかった。万年筆が果たして本当に復権しているのか?書籍や雑誌の発行など、状況証拠はあっても、数値ではわからない。この点が残念である。
もうひとつの問題は、万年筆での筆記が人間の精神や思考に影響を及ぼすものだろうか?これについての答えは明確でない。前節ですなみのことばに出てくる「ある大脳生理学の研究」は今のところ結果が見つかっていない。ただ、アメリカの心理学者が書いた「筆記療法―トラウマやストレスの筆記による心身健康の増進」という書物の中には、監訳者の前書きとして、以下のような文章がある。
「ストレスフルな体験を語ること、とりわけ筆記することが、精神の健康のみならず身体の健康に恩恵をもたらすことの科学研究は、1980年代中頃にテキサス大学オースチン校のジェームズ・ペネベーカー博士と共同研究者によって始まりました」引用-6)
そしてこの研究に触発されて行われた研究を元にまとめられたのが、この本である。ここでは体験や思いを筆記することが精神的によい影響を及ぼすことが豊富な事例によって示されている。しかし、使われる筆記具については触れられていない。これもまた、状況証拠の域を出ないと言えよう。
ただし、2005年の出版界では、百人一首や源氏物語などの古典を中心に、手本を鉛筆でなぞる本や、名作絵画を元にした塗り絵がよく売れたと聞く。これらは売り出しにあたって、ストレス社会における「癒し」を強調し、オビにも類似するキャッチコピーが書かれていた。科学的な根拠は別としても、こうした「癒し」を求める大人が、手書きに一部回帰している。こうした現状はあるように思う。

4. まとめ

このように万年筆そのものの魅力については、手書きの魅力、プロダクト製品に共通する魅力などなど、さまざまな要素が複雑に存在することがわかったものの、これらを分析するところまでは行かなかった。多くの文献を集め、質問紙調査も行い、大変楽しく研究を進めてきた。しかし、数値的な裏付けが見つからなかったこともあり、「思ったことを根拠づける」ところまでいけなかったのが残念である。
最後に、万年筆の筆記について、私自身の現時点での考えを述べて終わりとしたい。
私は、万年筆の筆記を積極的に生活に取り入れている一方で、手書きの復権と見える現在の動きが、「癒し」志向とリンクしがちなことに、違和感を強く抱いている。その理由はといえば、私は「癒し」という言葉が大嫌いだからである。「癒し」の根本は今はやりの「デドックス」と同じで、負の感情を悲しみやつらさ、怒りといった負の感情と向き合わず、とにかくすっきりしてしまいたい、ということではないか。
悲しみやつらさは、消し去られるべき感情ではなく、人生の道連れと腹を括って、対峙すべきものだと考える。そして、負の感情に対し、頭脳戦で立ち向かい、気持ちをなだめるからこそ、人の知恵も育つ。自分の思いを書いた結果すっきりする、というのはどのようなものを使って書くにせよ、あり得ることである。しかしそれは私の場合、書くという行為によって「癒される」からではなく、感情を文章化することで、客観化できるからなのだ。
もうひとつの問題は、手書きとPCの共存についてである。手書きが即PC、デジタル文化の否定になるかといえば、それは決してそうではない。私も夫も手紙や予定表や日記、日々の雑記と万年筆を活用しているが、手紙以外でまとまった文章を書く時は、必ずPCを使っている。
まとめて言うと、手書きで書かれたものの内、情報として重要なものは、あとからデジタル化して活用している。手帳に書かれたものを元に「Outlook」で日記をつけ、それを私自身のサイト「ほんわか修士生活」の更新にも活用する。―こんな流れである。
万年筆は私にとって快適で楽しい筆記具であり、なくてはならない存在である。手書きをする場合には、万年筆が一番だが、PCに取って代わるものではないし、その必要もないのである。
ちょうどこの論文執筆の最終段階に入った2007年年明けに、朝日新聞の「生活」欄に面白い記事を見つけた(2007年1月7日の朝刊)。記事によれば、ラジオ番組に寄せられる投稿は、郵便からファックス、そしてメールへと変化し、今は6割がメール、3割がファックスだそうだ。この現状について、70〜80年代深夜ラジオに出演し、今もラジオで多くの人の投稿を扱うパーソナリティのつぼイノリオ氏は、「昔の投稿は『情』が詰まっていたね」と振り返り、現状について「ファックスもメールも、放送と同時進行で入れるツッコミ。じっくり考えてネタを書く能力とは違う」と感想を述べている。しかし、そのすぐあとに彼は、お年寄りもメールを送る時代であることを思い、「機械的な文字の向こうに、温かい親指を盛んに動かしてくれている姿を想像するんです」とのフォローで話を締めている。
また、この記事の中には、絵手紙を年間2000通出す主婦の話も出ている。しかしその彼女も家族との連絡には携帯メールを愛用し、ブログも開いている。感動をその場で伝えられる魅力は捨てがたいと言い、「メールのありがたみを知ったから、じっくり手紙にも取り組めるんです」と述べている。
そして記事の最後には、このような言葉があった。「伝え合う手段が多様になり、時間の流れが変わっても、言葉に大切さは変わらない」
これはあまりにも当たり前な事実だが、技術の進歩によって、本質がわからなくなるのは、何についても起こりうることである。書くことについても事情は同じで、何で書くかという方法を楽しみつつも、何を書くのかという本質を、忘れないようにしたいと思った。
前書きに書いたように、人とのかかわりがつらくなったところで、何となく手に取ったのが万年筆であった。そして、今回の卒業制作を通してその万年筆を愛する人の思いを知り、人間のつながりって、やっぱりいいかも、と思えた。私にとっては、万年筆についての体験を語る中で、その人にとって大事にしているものを垣間見ることができ、非常に興味深かった。同時に、こうした人がいる内は世の中大丈夫なんじゃないか、とも思いもした。これが、非常に大きな学習であったと思う。
今の気持ちを大切に、これからもがんばって暮らしていこうと思います。