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(1) どんどん深みに (2) ニューロンについての常識 (3) 異論もある
(4) 私の個人的希望 (5) 脳と運動 (6) 脳について読んだ本
(7) 大脳皮質の分業 (8) 運動は脳細胞を増やす (9) 情報 : 神経幹細胞の培養
(10) 情報 : 頭皮から神経前駆細胞 (11) 情報 : 直接脳に薬を運ぶ (12) ニューロンの構造
(13) 大脳の表面の2〜3ミリの膜 (14) 脳機能の再編成 (15) 脳の運動機能回復の順序
(16) 脳の多様性・重要性 (17) 脳の渦理論(Vorex Theory) (18) 情報 : お手玉の練習で脳が強化
(19) ヘルメットで低温療法=ICUなくても可能 (20) 米国で第29回国際脳卒中会議 (21) 市民公開シンポジウム「脳卒中を知る」
(22) 動的平衡と脳細胞の死


(1)どんどん深みに


脳について、一般向けに数多くの書籍が出ている。私は脳梗塞になるまでは、脳についてはほとんど知ら なかったし、興味もなかった。

しかし、病気を克服するためには、まず脳のメカニズムを理解しなくては、対処法も見つからないと思い、 色々読み始めた。いざ読みはじめると、次々に判らないことが出て来て、どんどん深みにはまっていく気がする。
脳細胞のネットワーク、コラムの一部が壊れたり、機能が低下しても、他の「樹状突起を伸 ばして成長するニューロン」が壊れた部分をカバーすべく活動することは考えられないか?

ダメージの範囲にもよるが、ネットワーク(例えば指を動かすコラム)が全廃していない限 り再生の余地があるといえないか?

このネットワークの中のニューロン同士が互いに複雑に連携して、脳の無限の融通性とい うか可塑性を作り出しているのではないか。?

飛行機やコンピュータを生んだ20世紀が人間の生活環境を変える「物理学の世紀」なら、 今世紀21世紀は人体そのものを変える「生命科学の世紀」と言われている。

そして今、生命のビッグバンが始まっている。「ヒトゲノム計画」を筆頭に遺伝子研究が日米欧 の科学者の手で進められている。

人間の体外受精卵や中絶胎児の細胞から、脳神経や心臓、血管などの臓器・組織を人工培養した。 拒絶反応の安全性が確認されれば、米国では脳卒中や痴呆症の治療に使う脳神経なら2〜3年で量産できるという。


つい最近では、2001年1月26日発行の米国科学雑誌「サイエンス」に、日本の研究プロジ ェクトが『記憶を思い出す際に、記憶するときとは逆向きに伝わる脳内の信号を見つけた』 と発表した。

『物忘れや痴呆症などは、この逆向き信号の伝達がうまくいかなくなってできると考えられ』記憶障害の メカニズム解明への第一歩となる重要な発見として注目されているとのことだ。
年をとると、人の名前などを一生懸命思い出そうとすればする程、思い出せなくなったり するが、『これは記憶自体が無くなってしまうのではなく、今回見つかった記憶想起のネ ットワークの一部が壊れるため起きると考えられる』という。
さらに、『このネットワークの機能停止が原因となっている場合、記憶自体は残っている可能性があり、 痴呆症の治療法開発につながるかもしれない』とのことだ。


(2)ニューロンについての常識

澤口俊之著「わがままな脳」から以下引用する。
脳のほとんどのニューロン(全てではない)は生まれてから分裂しない。つまり新しくならない。 それだけならまだしも、どんどん死んでいく。
・成人してからの生涯で、一日当り平均10万個は死んでいる。1年で3500万個。 脳内ニューロン1000億個のうち、大脳皮質のそれは140億個ほどにすぎない。 「一日10万個」は大脳皮質の話で、このうちの「一日10万個」は決して馬鹿にできない数だ。
  
・しかも、誕生前後に大脳皮質だけで100億個以上の「大量死」がある。
・赤ん坊にとって、どういう環境に生まれるか、どんな学習・経験が必要になるかは生ま れるまでは分からない。
・そこで、ニューロンとその回路を大量に余分につくっておいて、生後の環境に応じて、 学習・経験を通して適当なものを選択するのである。余分なものは死んでいく。
・同じようなことが生涯を通じて起き続けるのだ。これが「一日10万個」の本来の意味 に違いない。
・細胞は集団をつくる。そして、その集団の中の構成要素が多少失われても大勢に影響 はないといわれる。但し、外傷や脳梗塞などでニューロン集団そのものが失われてしまうと大変なことになる。
・この細胞の集団を『コラム』という。 高さは2〜3mm(皮質の厚さ)で、中には数万個のニューロンが含まれている。
・こうしたコラムが複数集って、領野・モジュールがつくられる。


これが脳科学者たち、そして広く一般の人々の間での定説・常識になっている。

(3) 異論もある

しかし、こうした世間の一般常識に異を唱える考えも当然ある。

例えば、作家でジャーナリストのマイケル・ハッチンソン著「メガブレイン」である。
・「脳細胞は体の細胞と異なり、再生能力がない」
 「私たちは、毎日何万という脳細胞を失っている」
こうした思い込みは、「成人すれば脳細胞は容赦なく減り続け、私たちは老衰の下り坂 をゆっくり進む運命にある」という間違った常識を作り上げています。
・ニューロンの喪失をしめすほとんどの研究は、動物たちを隔離して行われているので す。つまり、動物たちは“完全に孤独な環境”だったのです。
・ネズミを様々な環境に置いた実験の結果、刺激によって大脳皮質は変化し、豊かにな ることが判りました。解剖学的には次のような変化が起きました。
   ・大脳皮質が厚くなった。
   ・大脳皮質のニューロンの実サイズが15%伸びた。
   ・ニューロンの神経細胞から突き出している多数の樹状突起の数が増えた。
    これはニューロンが受け取る潜在情報量が増えたということ。
   ・樹状突起の単位当りの樹状突起束数が増えた。
   ・シナプスの数が増加し、接合面積が拡大した。
   ・大脳皮質の重さが増えた。
   ・グリア細胞の数が15%増加した。
・このように、多くの刺激を含む環境下に置かれた場合に、質的にも量的にも変化したと いう事実は非常に重要です。
・また、刺激の少ない環境では、みかけは小さくなり老化しますが、必ずしも脳細胞が失 われているわけではありません。適切な刺激を与え続けていれば、脳細胞から伸びて いる樹状突起は縮みません。
・刺激の多い環境にいる人間は、年齢を重ねても精神的発達を続けるという。
・孤独で刺激の少ない環境において、精神的に老化していても、様々な外的刺激を受け 続けると回復するという希望があるのです。

(4) 私の個人的希望

参考までに2種類の考え方をあげましたが、必ずしも違ったことを言っているとはおもいません。 多少視点が異なるだけではないかと・・・・・。

澤口氏もその著書の中で、最近の実証結果としてネズミによる実験を紹介している。
(多分同じ研究の紹介だろう)
注目すべきなのは記憶に関係する脳部位−−とくに海馬−−での研究だ。
海馬のニューロンが大人になっても増殖し得ることが最近になって実証されたのである。
これはネズミでの実験なので、人を含めた霊長類でも成り立つかどうかはわからない。だが、海馬は 原始的な脳部位であり、その基本的な構造と機能は哺乳類の様々な系統を通じて維持されている。だから、 この場合ネズミのデータはヒトにも適用できるだろう。
そのデータによれば、ニューロンの増殖には環境要因が大きく関わっており、ネズミを豊かな環境 で飼育すると、海馬のニューロンはより多く増えるのである。もちろん大人のネズミで。


同じ研究を二人の著者は違った視点から取り上げている。澤口氏は「海馬という特別な脳部位で例外的に 起った」とみている。一方、ハッチソン氏は「海馬とは特定しないで、脳細胞にある性質」と位置づけている。



我々読者を悩ませるのは、このケースのように同じ研究から異なる見解を導き出される時。 それ以上の情報を持ち合わせない素人にとって、どう理解したらいいのか、困惑するばかりだ。 先端分野の記述を読む時、常に念頭に置いておかなければならないポイントだ。


私が気に入っている見解は、ニューロンが死んで減少している部分では、それを相殺する様に樹状突起が発達している。 つまり、「死んでいくニューロン」と「樹状突起を伸ばし成長していくニューロン」の2種類が 存在するという考え方だ。

つまり、健康に年を取った場合、ニューロンの減少は神経接合が増えることで相殺され、 その人の努力で若い頃よりも脳を成長させることができると言える。

米国の国立老化研究所(National Institute of Ageing)では、脳スキャンにより脳の化学的 性質を調べた結果脳の代謝活動の測定値が「健康に年を取った脳が、若い健康な脳と同 じくらい活発で効率的である」ことが確認されたそうだ。


これを脳梗塞のように、脳細胞の一部が壊死している場合との関連で、どう解釈したら いいのか?

脳細胞のネットワーク、コラムの一部が壊れたり、機能が低下しても、他の「樹状突起を伸 ばして成長するニューロン」が壊れた部分をカバーすべく活動することは考えられないか?
ダメージの範囲にもよるが、ネットワーク(例えば指を動かすコラム)が全廃していない限 り再生の余地があるといえないか?
このネットワークの中のニューロン同士が互いに複雑に連携して、脳の無限の融通性とい うか可塑性を作り出しているのではないか。?
もっと言えば、右脳と左脳の連携はどうなっているのだろう
左脳が右半身を、右脳が左半身を制御しているが、両半球は神経繊維の束から成る脳 梁で繋がっており、情報がやりとりされているという。しからば、正常な右脳(または左脳)が ダメージを受けた左脳(または右脳)をカバーして機能することは有り得ないのか?



これら『運動と脳』について書いた本を見つけた。それは素人に判り易く脳を解説をした 入門書と言うべきものであった。その本は時実利彦著「脳の話」だ. (岩波書店から 1962年に初版がでてから昨年で62版を数えている。残念ながら著者は既に亡くなられている。)

(5) 脳と運動

時実利彦著「脳の話」より抜粋
脳の働きを調べる重要な方法の一つに、破壊法がある。たとえば、手の運動野を切取る と手が動かなくなる。聴覚野を切取ると、聞こえなくなる。
しかし、破壊法にも短所がないわけではない。先程の手の運動野を切った場合でも、しばらく の間は確かに手が動かなくなるが、そのうちに回復する。
周囲の部位が働きを代行してくれる為であって
、この代償現象は、実験結果の判断を混乱させる恐れが多分にある。
大脳皮質には、たくさんの運動に関係した領域がある。運動野(4野)、その下に第二次 感覚運動野、半球の内側面にある補足運動野、運動野の前方の運動前野(6野)がある。
運動前野は、一つ一つの筋肉を、目的にかなったように働かせる順序だてをする場所、 すなわち運動の統合が行われる場所と考えられる。いわば、運動の設計書が作られると ころである。
ここで作られた設計書は運動野へ受け渡され、運動野は設計書に従って、一つ一つの 筋肉へ運動のインプルスを送り出すと考えられる。そして、第二次感覚運動野や補足 運動野はこの仕組みに補足的に働いているのであろう。
運動野は、身体の反対側の筋肉を支配しているが、そのほかの領域は、両側支配の性 質が強い。従って、左側の運動野が壊れると身体の右半分の筋肉がきかなくなるが、 運動前野は、両側を壊さないと運動障害がはっきり現れてこない。
運動野から下行する運動神経路や、皮膚から上行する感覚神経路が、脳幹や脊髄で 左右交叉しているので、脳と身体で支配関係が逆になるのだ。
しかし、この左右交叉は完全ではない。運動神経路のうちでも、錐体外路には同側の 筋肉を支配しているものがある。私たちが左右の手足をうまく協同して動かすことが できるが、これは運動野から両側支配をうけているためである。
ところで、左右の筋肉の協同的な働きは、左右の大脳半球の間の緊密な繊維連絡によ って一層完璧なものになっている。これが脳梁である。
脳梁による左右の大脳皮質の連絡は、顔や頚や胴体を支配する領域では密であるが、 手や足の領域では粗になっている。手や足は左右の使い分けが自由に出来るが、顔や 頚や胴体の筋肉でうまく出来ないのは、これが原因だろう。

(6) 脳について読んだ本

脳梗塞になって大きく変わったことの一つは、自分の時間が増えたこと。必然的に本を 読む時間が増加したこと。土・日曜日は勿論、平日も通勤電車の中で往復で一時間程度 は読める。幸い行きも帰りも始発駅から乗るので、一台待てばほぼ毎日座ることができる。

手に動きが現われ始めてからは、両手で本を持ち、ページめくりも右手が使えるように なったことが、車中での読書に繋がった。

読書の中身は色々で、仕事柄経済関係の本や歴史書などのほか、昨年(平成12年)一年間 は脳に関する本を読み漁った。インターネットで検索しては次々に購入していった。

参考までに、昨年読んだ脳に関する本を次に挙げる。

脳と運動(ブレインサイエンス・シリーズ17)     丹治 順著
運動と脳                          松波 謙一著
運動と脳(ライブラリ脳の世紀5)            松波 謙一著
脳の探検(上・下)                    フロイド・ブルーム他著
脳を育てる                        高木 貞敬著
脳の不思議をおもしろ科学               匠 英一著
脳の不思議を楽しむ本                 横田 敏勝監修
脳と心の仕組み                     永田 和哉監修
欲脳−あなたを動かしている正体−         大木 幸介・北村 美樽著
脳と心の地形図(ビジュアル版)           リタ・カーター著
生存する脳−心と脳と身体の神秘−         アントニオ・ダマシオ著
脳の中の幽霊                      オリブアー・サックス著
脳・心・遺伝子サムシンググレート          養老 孟司・村上 和雄著
生命・科学・未来                    養老 孟司・森岡 正博著
唯脳論                           養老 孟司著
脳が語る身体                      養老 孟司著
学問の挑発−脳にいどむ11人の論戦−      養老 孟司著
学問の格闘−人間をめぐる11人の論戦−     養老 孟司著
脳・心・言葉−なぜ私たちは人間なのか−     養老 孟司他
サイエンス・ミレニアム                 立花 隆著   
宇宙・地球・生命・脳−100億年の旅−       立花 隆著
脳とビッグバン−100億年の旅−           立花 隆著
人体再生                          立花 隆著
脳を鍛える−東大講義 人間の現在−        立花 隆著
21世 紀知の挑戦                    立花 隆著
科学・技術・人・知性                   小松 左京


(7) 大脳皮質の分業

私の主治医が「最近の海外の研究結果から、脳細胞に可塑性があること、つまりダメージを受けた脳細胞を代替する脳細胞があることが動物実験で確認された。ただ人間に当てはまるかどうかは、未だ不明だ。」
私の回復振りを見ると、感じることには支障がないので所謂「体性感覚野」が無傷だったことが幸いしている
とのことだ。

大脳の中心溝を境にして、前方の帯状の領域が筋肉運動を司る「運動野」で、後方の領域が皮膚感覚と筋肉運動の感覚を司る「体性感覚野」である。それぞれ身体の部位に対応した分業体制がある。ペンフィールドの人間の運動野と体制感覚野の分業を示した地図は有名。

しかし、この二つの領域の間には、働きのうえでははっきりした境界がなく、「体制感覚野」のなかにも、その効果は弱いが運動を発現する仕組みがあるという。その間をうめる「連合野」のスペースが非常に広い。

手や足などの末端で感じた筋肉運動情報が、脊髄を上行して小脳へ送られる。小脳は送り込まれた運動情報と運動の設計図とを照らし合わせ、もしくいちがいを発見すると、直ちに修正情報を送り出す。そして視床や大脳核を通って、大脳皮質の運動の領域に達する。

普通、運動系と感覚系はそれぞれ独立の系統として区別するが、運動系は感覚系の協力があってはじめて、その働きを合目的的、能率的に実現できるのである。つまり、二つの系統は非常に複雑な閉回路を作っているのだ。これをベルは「神経の環」と表現したそうだ。


(8) 運動は脳細胞を増やす


アメリカでこれまでの常識を覆す研究成果が次々と発表される中、日本ではこれら最新学説に基づいた本がなかなか出なかったが、ついにみつけた。 2001年3月30日にカッパ・ブックスから出版されたばかりの「脳から老化を止める(40歳すぎても脳細胞は増やせる)」高田明和著という本です。

これまで私の頭の中で断片的知識だったものが、この本では見事に整理されており、脳梗塞を例に挙げたりして、最新学説を判りやすく解説している。目から鱗がとれるとはこういうことだろう。

曰く、「脳細胞は70歳を過ぎても増えるということが判った」、「脳細胞を増やすには、運動・刺激的環境・訓練(勉強)をすることが大事」、「運動や訓練で、海馬という記憶の入り口の脳細胞が増える」、「私たちは、いくつになっても運動したり、訓練することで脳細胞をふやすことができるのです」等々努力すれば改善の余地のあることを教えてくれる。


以上の通り、本書は私のしてきた事が間違っていないことを裏付ける内容で、感激しました。
リハビリはなかなか思うように手足の動きの改善に繋がらないもので、このやり方でいいのだろうかと、常に自問自答しながら、手探りの状態でやっているだけに、本書は心の支えになります。

特に、リハビリにおける手足の運動が、対応する大脳の部位、あるいはその機能を代替する周辺部位の脳細胞の突起・シナプスを増やし、血流が増加して多くの栄養をそこに送り込むことにより、徐々にその部位が活性化されていき、動かなかったものが少しずつ動くようになることについては、正に私が日々実感しているところです。



(9) 情報 : 神経幹細胞の培養


01/08/08  JIJI PRESS ◎献体の脳から神経幹細胞=培養・治療実験に成功

『札幌医科大学の研究グループは8日、解剖実験のために献体された遺体から脳細胞を採取して神経細胞のもとになる神経幹細胞を培養することに成功したと発表した。

この神経幹細胞を脳梗塞などの症状を持つ動物に注射したところ、症状が回復したという。脳細胞から培養した神経幹細胞を移植して効果を確認したのは世界で初めて。

しかし、献体法では献体の目的を「医学の教育の向上」としており、研究目的で使用できるかどうか、今後慎重な議論が求められそうだ。

同大の本望修講師(脳神経外科)らによると、これまでに札幌の献体篤志家団体に登録していた70−90代の7人の死後数時間以内の遺体について、脳の側室と呼ばれる部分から細胞を採取して培養。

取り出した神経幹細胞を脳梗塞や脊髄損傷などの症状を持つラットや猿に注射したところ、神経組織の修復などの効果が得られた。神経細胞の機能が失わせる病気に大きな効果が期待できる。

同大倫理委員会は昨年5月に研究目的での使用については、献体団体総会で周知を図ったほか、7人の遺族からも改めて了解を得たという。献体法の解釈について、同大倫理委員長の神保孝一医学部長らは「委員会内でも議論した上で研究を認めたが、今後研究を進める上で、法律の在り方についてもう一度審議する」としている。』



(10) 情報 : 人間の頭皮から神経前駆細胞


01/08/13  JIJI PRESS   ◎人間の頭皮から神経前駆細胞

『マウスの皮膚の真皮から幹細胞を取り出し、神経や筋肉などの細胞に分化させることに、カナダ・マギル大学のフリーダ・ミラー教授らが成功し、英科学誌ネイチャー・セル・バイオロジーの9月号で発表した。

研究グループは人間の頭皮から幹細胞を取り出し、神経細胞の前段階の細胞(前駆細胞)をつくることにも成功しており、さらに研究が進めば、パーキンソン病や脊髄損傷など神経機能にかかわる病気の治療に役立つと期待される。

幹細胞は、個々の細胞の基になる細胞で、最近まで神経幹細胞は神経、造血幹細胞は血液というように、特定の細胞にしか分化しないと考えられていた。

一般的に、脳や脊髄の神経機能が失われる病気には、不妊治療で余った受精胚から得られるES細胞(胚性幹細胞)や中絶胎児の活発な神経幹細胞を移植する方法が有効とみられている。

しかし、生命倫理上の抵抗感が強いほか、薬剤で免疫拒絶反応を抑制しなければならない問題がある。患者が自分の体の幹細胞を使って必要な部位の細胞をつくることができれば、こうした問題が克服され、再生医療は大きく進歩しそうだ。

研究グループは、子供と大人のマウスから腹部と背中の真皮を採取、培養して幹細胞をつくり、神経細胞、神経のグリア細胞、内臓を構成する平滑筋の細胞、脂肪細胞の4つに分化させた。

さらに、神経外科手術の際に採取した患者の頭皮を使い、幹細胞をつくった上で神経細胞とグリア細胞のもとになる前駆細胞に分化させることにも成功した。』



2つの記事をみて思うことは、日本でも世界でも様々な研究がおこなわれており、次々とその研究成果が発表されている。

自分の頭皮から神経細胞とグリア細胞のもとになる前駆細胞を取り出す方法が、他の方法より現実的のように思う。なぜなら、ES細胞(胚性肝細胞)には倫理上の抵抗感があるし、免疫拒絶反応を抑制しなくてはならない問題がある。献体から採取する方法も倫理上の問題をクリアしなくてはならないが、自分の頭皮を使うとこれらの問題は発生しない。

再生医療の前進は、脳梗塞で片麻痺になった人間にとって、再び手足の動きを取り戻す大きな希望の光となる。


(11) 情報 : 直接脳に薬を運ぶ



01/11/15   JIJI  PRESS   ◎脳に薬運ぶバイオ技術開発

『藤田保健衛生大学の澤田教授は15日、薬剤を脳に運搬する「運び屋」細胞の増殖法を開発し、国際特許を申請したことを明らかにした。疾患部に直接作用する技術は、バイオターゲティングと呼ばれるバイオテクノロジー(生物工学)の注目分野の一つ。この技術によって痴呆や脳梗塞、脳腫瘍など脳疾患の効率的な治療法確立が期待される

「運び屋」となるのはミクログリアと呼ばれる細胞。もともと脳の中に多く存在し、細胞内に薬剤を含ませて体内に注入すれば、血管の中を脳に向かって進む。しかし、ミクログリア細胞を大量に採取するのは困難で、実用化への壁になっていた。

澤田教授は、GM−CSFと呼ばれる増殖因子を使う新たな処理方法を開発し、脳に移植しても腫瘍化する心配のない株化ミクログリアの増殖方法の確立に成功。マウスを使った実験段階では、薬剤や治療に役立つ遺伝子を脳に効率よく運搬することを可能にした。

ミクログリアは脳の疾患部分を探し出して神経栄養因子を放出し、神経細胞を元気にする作用や感染部分の細菌やウイルスを排除する働きもあることが確認されているという』


SF映画のように乗組員を縮小させて人体に潜入し、病気の部分を直接治療することはできないが、細胞を「運び屋」にして薬剤を疾患部分に直接投与し、病気の原因となる遺伝子を健康な遺伝子と組替えるというバイオターゲティング技術の進歩はこれまでの治療方法を一変させることになる。



(12) ニューロンの構造

ほっておいても毎日10万個のニューロンが死んでいくとき、脳のネットワークの再構築はどのようにして可能になるのか。

(8)運動は脳細胞を増やすにあるように、「神経細胞は、刺激されると突起を増やします。同時に、となりの神経細胞との連絡をするシナプスの数も増えます。突起が増え、シナプスが増えるということは神経の間で多くの情報が伝えられるということです

脳の方程式 いち・たす・いち」中田力著(紀伊国屋書店)に、二進法のことを英語でバイナリーシステムというとある。

ある法則に従った操作をおこなう回路を考える上で、入力の数には制限をしない。出力だけが一つであれば、あとは好きなだけ入力を作ることができる。

デジタルコンピュータはこのようなゲートを複雑に組み合わせて作られている。ひとつひとつのゲートは単純な演算しかしないのだが、全体として高度な情報処理を鮮やかにやってのかる。

脳も高度の情報処理をこおなす精密機械であるが、体の一部であり、「生命体」である。

脳を形成する細胞にはいくつかの種類があるが、神経ネットワークを作り上げている細胞は「ニューロン」とよばれる。ニューロンにもたくさんの種類があるが、左図のような基本構造を持っている。

ニューロンのもつ最大の特徴はその興奮性にある。「休んでいる状態」と「興奮した状態」とが存在するのである。

つまり、ニューロンはふたつの状態しか取れない「二進法的な行動」を示すバイナリーの単位であり、一千億個以上のニューロンが集まってできている脳はバイナリーシステムである。

ニューロンには樹状突起という入力端子軸索という出力端子がある。入力はいくつあっても構わないから、樹状突起の数には制限がない。しかし、出力はひとつに決まっているので、ひとつのニューロンにある軸索はひとつである。

どのような入力の組み合わせで出力がオンになるかは、コンピュータのゲートのように、それぞれのニューロンの特性として決められている。





入力の数がk個あるニューロンの場合、2のk乗だけの違った入力の状態が考えるから、そのひとつひとつに対して出力をどうするかが決まってなければならない。

興奮した状態のニューロンに起こる電気的信号は、活動電位と呼ばれる。

活動電位は軸索から、次のニューロンの樹状突起に伝えられる。この接続の部分がスイッチの役割を果たす構造で、「シナプス」と呼ばれる。



(13) 大脳の表面の2〜3ミリの膜

「脳から老化を止める」高田明和著から再度引用。

私たちが考えたり、行動したり、感じたりするための神経細胞は、大脳の外側の厚さ2〜3ミリの薄い膜のような所に局在しいています。

この部分を大脳皮質といい、そこには約2百億の神経細胞があると言われます。この薄い皮質の奥はどうなっているのでしょうか。ご存じのように、神経細胞には多くの突起があり、それがシナプスという構造でお互いにつながっています。

突起には軸索といって細胞から次の細胞に情報を送るための突起と、他の細胞の軸索からの情報を受け取る突起があります。

例えば、坐骨神経は、ふくらはぎのあたりや足の指につながっていて、足を動かすのに必要な神経です。

この神経は脊髄の下のほうの骨髄、仙髄というところにある神経細胞から突起が出ていて、その突起が指の筋肉につながっています。

一方、脊髄の細胞には大脳皮質にある(特に運動野にある)神経細胞の軸索が1メートルも伸びているのです。(図9)

このように脳の運動の神経は非常に長いのですが、それ例外にも、運動の神経は脳の他の場所にある神経細胞にもつながっています。

このような突起が皮質の下を縦横に走っているのです。



いままでは神経細胞は胎生期には分裂して増殖するにですが、生後は数が増えないと言われてきました。

しかし、脳は生後大きくなります。突起が多くなり、細胞間の連絡をするシナプスの数が増えるからです。

生後すぐの脳のシナプスは、二千五百億くらいしかありません。神経細胞の数が一千億とすれば、一つの細胞に三つくらいのシナプスしかないのです。

ところが、その後ものすごい勢いで増えます。生後一年くらいが最も多くなり、その後必要でないシナプスは整理されて除かれ、減少するのです。

私たちが年とともに勉強、訓練、経験などでいわゆる”頭がよく”なるのは、配線が密になるからです。((8)運動は脳細胞を増やす ”脳の回線”は代用がきくを参照)











(14) 脳機能の再編成

「リハビリテーション」上田敏著(「参考文献」参照)から脳機能回復の段階による違いを纏めた。

<1 初期回復>

脳梗塞の場合、血管がつまって血流が止まり、その血管の先が栄養不足、酸素不足で脳の細胞が壊れてしまう。

脳が壊れると、壊れた部分から出る化学物質の影響で周りの血管が麻痺したり、血流の流れが悪くなり、脳に浮腫みなどが起こる。すると、脳梗塞によって壊れた部分の機能が失われるだけでなく、その周りの、より広い範囲の機能が一時的に停止してしまう。

この浮腫は、いろいろな条件によるが、平均すれば3〜4週、だいたい一ヶ月くらいで周りへの影響がなくなる。

例えば、脳内には「内包」といって、脳の運動神経の指令を伝える繊維が集中している場所がある。そこは狭いが、重要な幹線道路のようなところなので、切れると非常に強い麻痺が起こる。

ところが、内包そのものに起こったのではなく、その隣に起こって強い圧迫や浮腫みの影響が内包の部分に及んでいるとする。
この場合、一週間くらいは完全な麻痺が続くが、浮腫みが消えて圧迫がとれていくと急速に回復していく。

ただし、内包を直撃している場合には、多少は回復してもそれ以上は良くならない。
そういう意味で、最初に脳が壊れたところはどこか、それがどの程度の大きさだったかということが、脳の回復では決定的な意味をもつのである。

<2 本当の回復>

本当の回復、つまり本当の意味の機能の再編成は、このような初期回復のあとから起こってくる. この機能の再編成は、数ヶ月から場合によっては1年、2年の期間にかけて起こるのである。

この本当の回復というのは、残った部分が壊れた機能の肩代わりをすることである。
運動機能の回復が可能な期間は年齢によって違いがあり、若い人ほど早く、50歳前後の人であれば運動機能の回復が頭打ちになるのは半年から1年、60代以上になると大体半年までというところです。(註:本人の治そうという意欲・取り組み方によって個人差がある)

<3 脳の中で何が起きいている?>

脳の神経の「シナプス」に変化が起きるのだ。((8)運動は脳細胞を増やす(12)ニューロンの構造を参照)
シナプスは、脳の細胞と細胞の間の情報伝達をする構造で、一個の細胞には平均5,000ほどのシナプスがあるといわれている。
シナプスは使えば使うほど神経情報が通りやすくなる。シナプスを使うほど、電気抵抗と同じような「閾値」というものが減って使いやすくなる。

ところが、シナプスを使わないでいると、閾値がどんどん上がって使いにくくなり、強いインパルス(活動電位)を送らなければ、シナプスが働かなくなるのである。

脳卒中で手足の麻痺が起きたということは、脳の運動野で手足の神経に指令する大事な回路が壊れたということだ。
いわば、東京から福岡に行く新幹線が途中の事故で壊れて、修復不可能になった状態と同じである。

違うルートを探して、ローカル線を乗り継いで行けば、非常に時間が掛かるし乗り換えなどの手間も大変かもしれないが、東京から福岡に行くことは不可能ではない。

それと同じように、今まであまり使わなかった、たくさんのシナプスをたどっていって、やっと目的のところに到達するということが脳の中で起こる。

しかし、それを繰り返してやっていると、そのシナプスがだんだん通りやすくなる。そのうちに、初めは非常に遠回りのバイパスであったものが、次第により近いバイパスに変わっていくとが起きる

このような現象が一箇所で起こるだけでなく、たくさんの箇所で起こることによって、結果的に機能の肩代わりがおこなわれて、脳の再編成が起こることになる。



(15) 脳の運動機能回復の順序

引き続き「リハビリテーション」上田敏著からの引用を続ける。  大脳の機能と運動支配との関係、大まかな動きと細かな動きをコントロールする場所の違いがほぼ理解できた。


<1 上位の運動中枢と下位の運動中枢>

運動支配についていうと、「上位の運動中枢」と「下位の運動中枢」の二つにわけて考えなければならない。

下位の運動中枢は原始的な古くからあるもので、ほとんどが脊髄にあり、一部は延髄や橋や中脳にもある。

ところが、上位の運動中枢というのは、大脳皮質が発達した人間において高度に発達してきたもので、非常に微細な動きを支配している。

脳卒中などの中枢性麻痺が起こると、上位中枢そのものがダメージを受けるか、あるいは上位中枢と下位中枢との間の連絡がとぎれてしまう。



<2 脳の機能回復の順序>

この状態からの回復には大きくいって二つの段階があり、回復の前半では下位の運動中枢のほうが先に回復し、だいぶ遅れて回復の後半になって初めて上位中枢と下位中枢との連絡が回復してくる。

下位の運動中枢だけ働いている状態の回復の前半では、体はかなり動くようになるが、原始的動きしかできない。

例えば、力が入らなくていいところに力が入ってしまったり、非常に大まかな決まりきった形の動きしかできない。

指なら五本の指、上肢なら肩と肘と手関節の三つの関節などを全体として曲げるか、伸ばすかという二つの決まったパターンでしか動かせない。

足のほうも同じで、股関節、膝関節、足関節を全体として縮めるか、全体としいて伸ばすかしかできない。

伸ばすほうを「伸筋共同運動」、曲げるほうを「屈筋共同運動」と呼んでいるが、この二種類しかできない。

回復の後半になって上位の運動中枢との連絡が回復してくると、共同運動をだんだん分化させて、ある関節を他の関節と関係なく動かすことができるようになる。

例えば、股関節は屈曲しているが膝関節を伸ばし、足関節は動かさないでおくことができるようになる。

こういうことは上位の中枢が下位の中枢に介入してきてはじめてできるようになる。

歩くためには、最低限下位中枢の回復だけで可能であるが、手は残念ながら下位中枢の回復だけでは不十分である。
手も肩から手首までは、足と同じくらいに回復して、腕を全体として曲げたり、伸ばしたりすことはできる。しかし手先は、握ったり開いたりはできても、それ以上の細かなことができるまでには回復しない。


<3 上位中枢との連絡の回復>

リハビリの必要性はここにある。即ち、脳から脊髄に対する支配力を強めていくような訓練を行っていくと、脳から脊髄におよぶ神経回路がだんだん強められていく。

その回路は必ずしも以前と同じストレートな回路ではなく、色々迂回している可能性はあるが、はじめは効率が悪くても除徐に効率よく働くようになる。

このように正しい訓練をしていれば、それによって一番望ましい神経回路が再建されてゆくはずだというのが、脳の機能の回復訓練の基本的考え方です。
「リハビリ」のページの「3 目的」を参照)


(16) 脳の多様性・柔軟性



人間の個性は脳の個性による。脳内で情報を表す単位は一つ一つのニューロンではなく、個性の異なる多数のニューロンが自在に協調してつくる柔軟な集団である。それはセル・アセンブリ(細胞集成体)と呼ばれている。

この協調的な集団は、活動の相関により異なる個性を持つニューロンを結びつけ、様々な情報を表現するのみならず、認識や記憶における情報間の連合や、新たな情報の生成、あるいは類似した情報のとりまとめなども可能にしている。

これは「考える細胞ニューロン -- 脳と心をつくる柔らかい回路網」櫻井芳雄著のプロローグからの引用である。

一つのニューロンは、数千から一万のシナプス、つまり他のニューロンからの信号入力部をもっている。そのようなニューロンが人間の脳では1000億以上もある。単純に計算しても、一万 X 1000億 = 1000兆(10の15乗)近い接続をもつ回路網が存在してる。((12)ニューロンの構造 参照)


ニューロンによる回路網は、まず遺伝情報により作られ整備されるが、人間の遺伝子を構成する塩基配列は、約10の9乗種類の組み合わせ、つまりそれだけの情報しかもち得ない。成長した人間の脳の回路網は10の15乗にも及ぶ接続箇所、すなわちシナプスがある。

つまり、遺伝情報により、ラストスケッチとでも言うべきおおまかな回路網が作られ、さらにアポトーシスによる整理を経た上で、出生後の様々な外部環境にさらされ、多彩な経験をすることにより、複雑で意味のある回路網が最終的に整備されていくと考えられる。((8)運動は脳細胞を増やす 参照)

本書の中で櫻井氏は、脳の機能代償に関して次のように述べている。

ある部位が損傷した時、いったいどこがその機能を代償するのかは、ほとんど予測できないらしい。

しかも代償部位は、その後さらに動くことがわかったのである。

失われた発話機能を代償する部位は、半年の間に脳の中を転々と移り、その間さまざまな条件を多分脳自身が検討した結果、最終的に元の部位の近くに落ち着いた。

このように、脳の個々の部位の役割、すなわち機能地図は固定されておらず、脳の状態に合わせて、ニューロンと回路網の役割は大きく変化するのである



そして、ある部位が損傷されたというような緊急事態になれば、直ちに変化しはじめ、脳全体の情報処理にとって最適な状態を作り出すために、しばらく試行錯誤を繰り返すようである。

ニューロンの興味深い性質と、それが作る回路網の特性が、脳独特の情報処理方式を実現していること、そしてそこから脳の多様性と柔軟性も生まれ、それが人間の多様性と柔軟性へとつながっていることを実験事実に基づき述べたものである。






(17) 脳の渦理論(Vortex Theory)

以前に(12) ニューロンの構造「脳の方程式 いち・たす・いち」中田力著をご紹介した。

「渦理論」については中田氏の著書を読んで頂きたい。私が興味を覚えたのは、 本書の中で、『人は二足歩行を始めたことで、言語を獲得した。二足歩行の結果、明らかに発達したものは手の機能である。手という高度な運動能力を持つ装置を正確に、かつ繊細に制御するために必須となる制御装置(小脳)の高度化は、同時に、他の運動機能にも高度化のチャンスを与えることとなる。』との記述がある。

さらに、『人はその歩行時に膝関節をまっすぐにロック(lock)させる。言い換えれば、歩行のある段階で、股関節から足首までがまるで一本の骨でできているかのように使うのである。これは猿の二足歩行には見られない、高等技術である。』

『初めてハイヒールを履いたときとか、初めてスケートをやった時など、二足歩行の安定に欠ける状態におかれたときに、人は膝をロックせずに、曲げたままで安定を図るのである。しかし、この方法ではエネルギーの消費が極端に高くなる。人の二足歩行はエネルギー効率が高い歩行なのである。』

私の麻痺側の右足は、残念ながらまだロックできず、エネルギー消費の高い歩行になっている。ただ、別に安定を図る目的で膝を曲げている訳ではなく、股関節から足首までを一本の骨のように出来ないためだ。膝関節をまっすぐにロックする、この高等技術を取戻せれば、昔のように自然で綺麗な歩行が可能となる。




(18) お手玉の練習で脳が強化=神経細胞が増える?


04/01/22 JIJI PRESS

『ジャグリング(お手玉)を3ヶ月練習して上達すると、脳の大脳皮質の視覚を司る部分が一時的に強化されることが、ドイツのレーゲンスブルク大学などの研究チームが行った実験で分った。成人の脳の構造はこれまで、年をとったり、病気になったりしなければ変わらないと考えられていた。研究成果は22日付の英科学誌ネイチャーに発表された。

研究チームは、ジャグリングの練習をしたことのない24人の学生を2つのグループに分け、一方のグループには3ヶ月間で3つのボールを1分以上ジャグリングできるよう練習してもらった。

両グループの脳を高性能のMRI(磁気共鳴画像診断装置)で観察して比較すると、練習したグループは3ヶ月前に比べ、大脳皮質の視覚野を処理する部分の働きが活発になっていた。これは神経細胞が増えたか情報を伝達する神経細胞同士の結合が強化されたと考えられるという。

その3ヶ月後、ジャグリングを行わなかった後に再び脳を観察すると、この部分の働きが若干低下していた。

視覚などの刺激によって脳の構造が変化することは、動物実験では報告があったが、人間では実証されたことがなっかたという。』


間もなく人間で実証される日が来るだろうと思っていたので、英科学誌ネイチャーに発表されても驚きはないが、でもこのMRIの威力は凄いと思う。その昔は脳の研究といっても生体解剖しないと人間の脳内を調べられなかったので、猿など人間に近い動物で実験するしか方法がなかったのに、現在は人間の脳内の変化がはっきり目で観察できるのだから・・・・。 
多分メカニズムはこうに違いないと思われていても、科学的に実証されるまでは推論にすぎない訳で、これでこの理論の正しさが裏付けられたことになる。
今後脳の研究は飛躍的に進歩するだろう。
そして我々片麻痺の人間にとっても、リハビリのやり方と継続の必要性が改めて問われることになるだろう。




(19) 「ヘルメット」で低温療法=ICUなくても可能


04/02/06 JIJI PRESS

『国立循環器病センター(大阪府)は5日までに、脳梗塞を起こして倒れた患者らの脳低温療法で、ヘルメット型の器具を用いて頭と首だけを冷やす新しい治療法の有効性を実証した。
従来の体全体を冷やす方法より簡便で、成果は米国で開かれた学会で発表された。

脳低温療法は、損傷した脳を冷やすことで、脳の腫れを抑え、周囲の正常な部分への影響を防ぐ治療法。

同センターは脳梗塞になって3〜12時間の患者17人に、ヘルメット型器具による治療を実施。脳の腫れを防ぐ点滴などとともに3日から1週間冷やした結果、約1ヶ月で半数以上の患者の運動機能などが改善し、長期的には全員が回復を見せたという。

脳だけでなく体全体を冷やす方法は、全身麻酔をするため、呼吸や血圧の管理も必要だった。新治療法では全身麻酔の必要はない。

同センターは「全身を冷やすほうが効果的だが、この方法は集中治療室(ICU)のない一般病院にも普及可能」と話している。』



脳低温療法の有効性は、柳田邦男の『脳治療革命の朝』に登場する日本大学医学部付属板橋病院の林教授を始め全国の多くの救急病院で実証されている。
「Q&A」のA子さんもこの脳低温療法で奇跡の生還を果たし、現在はリハビリに専念しており、この1年で驚異的な回復ぶりを見せています。

ヘルメット型の低温治療法が普及すれば、もっと多くの救急病院で患者をICUのある大病院へ転送する必要がなくなり、直ちに患者の治療が開始できるようになる。
脳梗塞で最も大事なことは、脳の腫れ(浮腫)を一刻も早く抑えることであり、処置が遅れると周囲の正常な脳へのダメージが拡がって、症状が重くなっていくだけに、早く全国的に新治療法が普及して多くの脳梗塞患者が助かることを願います。


(20) 米国で第29回国際脳卒中会議 (29th International Stroke Conference)


前記の「ヘルメット型脳低温療法」が報告された国際脳卒中会議(International Stroke Conference)の内容がアメリカ脳卒中協会(American Stroke Assocation)の公式HPに掲載されています。

アメリカ脳卒中協会 :  http://www.strokeassociation.org
第29回国際脳卒中会議  : http://www.strokeconference.org/portal/strokeconference/sc/
「ヘルメット型脳低温療法」報告に関するNews Release  : http://www.strokeconference.org/portal/strokeconference/sc/02.05.04B


2004年2月5〜6日にかけてカリフォルニア州のサンディエゴ・コンベンションセンターで開催された第29回国際脳卒中会議で、日本の研究チームの発表した『低温ヘルメットによる治療が脳卒中治療に革命をもたらすかもしれない』と話題になった。

発表したのは、大阪の国立循環器病センターの山田博士らの研究チームで、「クールなヘルメット」で治療を受けた重症患者17人(平均68歳)の患者のうち、6人については治療から3〜10ヵ月後も経過良好で、死亡した患者はわずか1人だったと報告した。

By keeping stroke victims' heads cooler than their bodies, "cool helmets" attempt to put their brains on pause. The colder temperature buys time before severe damage from oxygen starvation sets in.
Photo: Courtesy Bill Elkins

低温では基本的に脳が「一時停止」し、酸素不足による深刻なダメージを受けるまでに時間がかかる。
神経外科医による手術の間は、ずっと脳を冷やしつづけるのが一般的だ。それにより、脳の損傷を引き起こすことなく一時的に血液の循環を止められる。

脳卒中患者を冷やすために、これまでに冷却用の布で患者を覆う方法や、血液を冷却するという方法が試されてきた。しかし脳とは異なり、「体を冷やすのは好ましくない」とワン博士は述べる。身体内部の体温が下がると、患者は震えだし、感染と出血の危険が高まる。麻酔で震えを止めることは可能だが、麻酔に固有の危険が生じることになる。






(21) 市民公開シンポジウム「脳卒中を知る−その克服に向けて−」


2004年10月に開催された首題のシンポジウムはとても意義深い内容でした。
(財)難病医学研究財団が主催し、厚生労働省・東京都医師会・NHK・読売新聞社・日本脳卒中協会・日本脳卒中学会が後援しています。

<プログラム>

  1. 開会挨拶
  2. 来賓挨拶
  3. わが国の脳卒中−その対策は緊急の課題−   講師:山口武典・国立循環器病センター名誉総長
  4. 脳卒中を薬で治す                    講師:篠原幸人・東海大学医学部教授
  5. 脳卒中をリハビリで治す              講師:宮井一郎・大道会ボバース記念病院院長
  6. 脳卒中を克服して                    講師・大岡信
  7. 脳卒中を防ぐ                       講師:東儀英夫・岩手医科大学名誉教授
  8. 質疑応答
  9. 閉会挨拶

土曜日の午後1時に始まり、予定通りぴったり5時に終了しました。
講師の持ち時間は一人30分しかないので、プロジェクターを使いながらかなり皆さん駆け足で話をされました。

脳卒中の説明では、発症から3時間以内の早期治療の場合の完治の確率の高さとか、MRI等の画像診断の高度化とかの話には特に目新しい事実はありませんでした。
長嶋元巨人軍監督は心房細動による心原性脳塞栓症であることが判明したことが唯一の新事実でした。

今回是非話を聞きたいと思ったのは、「脳卒中をリハビリで治す」をテーマにした宮井ボバース病院院長です。
ボバース記念病院については、何度か話題にしてきましたので皆さんもご存知のことと思いますが、そこの院長から直接話しを聞くことができるまたと無い機会になりました。(大道会ボバース記念病院のHP)

ボバース記念病院のリハビリの基本的な思想が『脳に残る潜在的な機能に働きかけ、まひ側の能力をも引き出していこう』というものであること。
最近の米国の研究で、死んだ脳組織の周辺に脳に新しいネットワークが出来ること、そして脳の機能的再構成が行われることで機能回復に役立っていることが解ってきた。
リハビリテーション治療による機能回復を神経科学的に解明することは、さらに効果的な訓練方法の確立に役立ちます。そして、その成果は、患者さんの機能障害の程度を軽くし、社会復帰を助けることにつながると信じるもの

麻痺側の手足を使うことが大事で、発症後1年経過した患者に改善がみられた。
最近は科学的リハビリが普及し始めており、MRIの活用、特に機能的MRIという方法で、運動中の脳の活動部位を苦痛なく調べることが可能になりました。

ボバース記念病院でもこの最新の検査機器を導入し、患者さん一人ひとりに神経科学的な根拠に基づいた最適な方法でリハビリテーションを提供するための研究を行っています。例えば、電極を沢山付けたヘルメットに磁石の刺激で、どの部位が反応しているかをモニターしながらリハビリを行う研究を行っている。


このシンポジウムに参加して、このような動きが始まっていることは、今後のリハビリのあり方を大きく変える原動力になると思うし、一刻も早く全国のリハビリ病院に拡がることを願わずにはいられないと思った。

(22) 動的平衡脳細胞の死

分子生物学者でありながら、卓越した文章構成力・表現力をもつ福岡伸一「生物と無生物のあいだ」がサントリー学芸賞・新書大賞をとったのをはじめ「できそこないの男たち」「世界は分けてもわからない」等のサイエンス・ストーリーを立て続けに発表している注目の人である。

その中でも代表作の「動的平衡」」では次のように述べている。

命とは、絶え間ない流れの中にある動的なものである』と謂い、
『脳細胞は一度完成すると増殖したり再生することはほとんどないが、・・・・脳細胞を構成している内部の分子群は高速度で変転している。』
『ビデオテープの存在を担保するような分子レベルの物質的基盤は、脳のどこを探してもない。あるのは絶え間なく動いている状態の、ある一瞬を見れば全体として緩い秩序をもつ分子の淀みである』

『ならば記憶はどこにあるのか。それはおそらく細胞の外にある。神経細胞(ニューロン)はシナプスという連携を作って互いに結合している。結合して神経回路を作っている。』
『神経回路は、経験、条件付け、学習その他様々な刺激と応答の結果として形成される』
個々の神経細胞の中身のタンパク質分子が、合成と分解を受けてすっかり入れ替わっても、細胞と細胞が形作る回路の形は保持される
『神経細胞と神経細胞との間の情報のやりとりには
ペプチドが働いている』


最近、グリア細胞が注目されている。脳では神経細胞(ニューロン)のまわりをグリア細胞が覆っている。その数はニューロンの10倍もあり、体積では脳の半分を占める
免疫学の世界では、グリア細胞の一つである、免疫細胞のミクログリアが注目されている。

ミクログリアは、細胞間相互作用を媒介するペプチド/蛋白性物質であり、貪食能、抗原提示機能のほかにサイトカインを作り出し、免疫反応を行っている。またこのような免疫反応に加え、損傷した脳神経回路を修復するための因子を出す、修復反応も行っている。

免疫反応が必要以上に働くと、脳神経細胞まで破壊してしまう恐れがあるため、ミクログリアは普段は不活性状態で血管周辺にあって、血管が損傷したとき以外は白血球が入り込めないようにガードしている。脳神経細胞からの信号で活性化される。更に脳細胞は「SOS信号」と「GIVE UP信号」を使い分けてミクログリアの働きを制御している。

「SOS信号」を受けると、ミクログリアは中心的に修復反応を行い、傷ついた脳神経細胞を修復する。
損傷が深刻で、神経細胞が死滅している場合は、死滅した細胞が周辺細胞に更なる炎症を引き起こすため、「GIVE UP信号」を出し、ミクログリアの免疫反応を呼び起こす。
ミクログリアは死滅した神経細胞を貧食し、サイトカイン等を放出することで炎症の拡大を防止する。


最近、慶応大学免疫学部では、脳梗塞の発症後に起きる脳の炎症で、神経細胞が死にいたる詳しいメカニズムを解明したそうです。
炎症にかかわるタンパク質として最近発見されたインターロイキン(IL)17とIL23が関係していると仮定して、脳梗塞を再現したマウスでILの発現を調べた。

発症1日目、梗塞部分に死んだ細胞を捕食する免疫細胞「ミクログリア」が集まり、IL23を作っていた。
続いて、別の細胞「ガンマデルタ型T細胞」が集まって、IL17を分泌した。
発症3日目には、2種類のILが連鎖的に作られ、時間差で炎症を悪化させる仕組みが判った。

2種類のILを制御すれば、T細胞が梗塞部分に集まることを防ぐ薬剤を使うと梗塞部分の体積が約4割小さくなった。
同様のメカニズムが人間にある可能性が高いという。


文科系人間には良く理解出来ないミクロな話でしたが、何はともあり脳梗塞で壊死する部分が最小限に抑えられ、麻痺の程度が軽くなれば有難いことです。