<創刊にあたって>
 此度、Rare Book Librarianship、書物史、書誌学関係の文献、ニュース、イベントなどを中心に紹介する『The Biblio Kids!』を刊行することになりました。「不定期の刊行」と予防線をはるものの、ちゃんと第二号を刊行できるのか、かなり不安ですが、誌名に愛着もあり、気ままに楽しみながら編集していきたいと思います。最新の情報を網羅した情報誌を目指すのではなく、たまたま目に触れた興味のある情報を、新旧とりまぜて紹介していく予定です。外観・内容の両面ともに、徐々に充実させていきたいので、アイデア、意見、情報などがありましたら、ぜひお知らせ下さい。
 ここで誌名の由来について説明しておきましょう。 まず考えた名前が『Bibliographical Peeping Tom』でした。A Short Title-Catalogue ... 1475-1640
(STC)
の第2版の編纂者 K.F.Pantzer が、オーナメントや飾り大文字などから印刷者を割り出すことの好きな自分自身を、そのように呼んだのです。その意味するところと若干のいかがわしい響きは気に入ったものの、語路の悪さが気になりました。その後、John Carter、Graham Pollardら、今世紀中頃に活躍した書誌学者のグループが「Biblio Boys」と呼ばれていたことを知り、コレダ!と思い、「The Biblio Kids !」と一部変更したうえで、誌名としました。

<NEWS PEEP:最近の記事から>
◇ イギリスにおける本の盗難、年間2億ポンド  英国内務省の全国調査によれば、イギリス全体で年間約880万冊の本が紛失しており、これは図書館全体の年間経費の1/4以上に当たり、全体の蔵書量約2億冊の1/25が毎年失われていることになる。利用者の返却忘れが紛失原因の約1/3を占めている。盗難の多い主題は多様だが、オカルト、性、ベストセラー、趣味などが上位を占め、性は都市で多く、黒魔術は小さな町で多いといった地域差も見られた。Cardiff では Encyclopedia of Tropical Fish (75ポンド)が配架されて30分も経たない内に盗まれたケースが指摘されている。また、本の泥棒を捕らえ警察につきだしたことのある図書館は1/5に過ぎなかった。(Sunday Times 1992.11.29)

◇ボスニア・ヘルツェゴビナの国立図書館兼大学図書館炎上
 1992年8月25日、首都サラエボにあるボスニア・ヘ

 

ルツェゴビナの国立図書館兼大学図書館が、セアビア武装勢力による砲撃を受け、炎上・崩壊した。蔵書の救出活動を試みた市民に対しても迫撃砲・機関銃による攻撃が加えられ、市のシンボルでもあった疑似ムーア様式の綺麗な建物は崩壊し、約300万冊の蔵書の大部分が焼失した。主に16世紀以降のイスラム文献からなる貴重書約15万5千点は被害を避けるために地下室に運ばれたが、そこでかなりひどい水害を被った模様である。1896年にタウンホールとして Miljcka 河岸に建設された建物は、第一次世界大戦の勃発を告げた1914年6月のオーストリアの Ferdinand 大公の暗殺事件の現場となった歴史的な建造物であり、1951年以降国立図書館が使用してきた。(American Libraries 23(9):736,816 (1992.10))

<NEWS PEEP:少し前の記事から>
◇マイクロ版 Opie Collection 発売
 Oxford 大学 Bodleian Library 所蔵の The Opie Collection of Children's Literature がマイクロ化され、University Microfilms International(UMI)から発売された。イギリスの伝承童謡の研究などで有名な Peter & Iona Opie 夫妻によって収集された図書、小冊子、雑誌、コミックスなど、2万点以上からなる世界有数の児童書コレクションである。(Wilson Library Bulletin 65(9):14(1991.5))

◇ Arthur Rackham のコレクション、Oxford 大学 Bodleian Library へ
 19世紀末から20世紀前半に活躍したイギリスの代表的なイラストレーターの一人である Arthur Rackham の挿絵本80点以上が、Allied Provincial Securities 社の重役 Simon Castello から Bodleian Library に寄贈された。その大部分は著者署名入りの限定本であり、さらに Rackham 自身によって描き加えられた絵の入った本も含まれている。(Libr. Ass. Rec. 93(4)(1991.4))

◇ Alice's Adventures in Wonderland の版木、British Library へ
 この本に使用されたSir John Tenniel による挿絵の版木は1985年にロンドンの銀行の保管室で偶然発見されたが、1991年10月、出版元 Macmillan 社および C.L. Dodgson Estates によって、British Library に寄託された。(Libr. Ass. Rec. 93(11):723
(1991.11))

 


<BIBLIO PEEP:文献紹介>
◇月村辰雄『恋の文学誌 フランス文学の原風景をもとめて』(筑摩書房 1992)
 とくに6-10章「黙読のすすめ」「読み上げの背文字」「本の虫」「書物を洗う」「すれっからしの書物」(p.69-108)には、恋愛をからめた軽やかな書物エッセイのなかに、読書と書物の歴史に関する専門的な知識が散りばめられている。「ラテン語の書物を黙って読む習慣が学僧のあいだにひろまったのは、フランスでは十一世紀末のことであり、さらにそれがフランス語の読書人にまでおよんだのは、十四世紀から十五世紀にかけてのことであると考えられている。」「フランスの製紙業は、下着をねらって各地を徘徊したといっても過言ではないのだ。」などなど。

◇長谷部史親『推理小説に見る古書趣味』(図書出版社 1993)
 現場に残された稀覯書が殺人事件の鍵になっているウィル・ハリスの『殺人詩篇』、公共図書館において頻発する美術書の切り裂き事件を発端に、未解決の猟奇殺人事件との関連へと展開していくジョナサン・ヴェイリン『獲物は狩人を誘う』、副業に古書店を営む泥棒バーニイ・ローデンバーのシリーズなど、古書、古書店、図書館などに直接・間接に関わる biblio mystery(翻訳推理小説が中心で、日本の推理小説は一章のみ)を紹介。ブックス・オン・ブックスの愛読者であると同時にミステリ・ファンでもある人にとって、便利で楽しい本となっている。ただし、全体的に書誌事項が十分でなく、その本を見つけたいと思っても、探すのに苦労しそうだ。

◇宮下志朗「夢想の送り手としての貸本屋」『図書』(495):8-13(1990.9);宮下志朗「本の密猟者エンマ 一九世紀フランスの読書する女」『月刊百科』(359):4-10(1992.9)
 どちらも、フロベール『ボヴァリー夫人』など、フランス文学の作家・作品を通しながら、19世紀フランスの女性と読書(とくに小説)、読書に大衆化を背景に当時続々と誕生した貸本屋事情などを、分かりやすく紹介する。なお、後者では、「読書クラブ cabinet de lecture」と「貸本屋 loueur de livres」とを区別して、「『読書クラブ』は直訳すれば『読書室』となる。十八世紀後半に出現した商売とされてきたが、十七世紀にすでに存在したことが最近になって明らかになった。書店が別室を設けて、そこで一定の料金を徴収して新聞やら新刊書の類を読ませたのが、その由来とされる。」「読書クラブの元来の姿はやはり、単行本などは置かず、新聞・雑誌の閲覧だけを行わせるものであった。読書クラブの多くが年中無休で、朝から晩まで開いていることも、この基本的性格と関わっている。」「読書クラブでは、新聞を店で読む分には今

トップページに戻る
・ゼミ トップページに戻る


日の新聞の値段より安く読めたらしいからいいが、単行本を借り出すとなると、かなり高額な月会費や保証金をとられた。だがもうひとつ、いわば金のない活字中毒者向けに『貸本屋』というのが存在した。そこでは小説などの単行本のレンタルが主であった。・・・月会費などは取られず、一日いくらという計算だったらしい。」と説明する。 ◆18世紀末から19世紀中頃にかけてのフランスの書物事情を、文学作品から知るには、『ボヴァリー夫人』と、Philip Gaskell が A New Introduction to Bibliography で引用しているバルザック『幻滅』とが必読文献のようだ。

藤川芳朗「ある貸本屋の肖像 ドイツ語圏の本の文化史(1)-(3)」『月刊百科』(359):11-16(1992.9); (361):32-39(1992.11); (364):33-39(1993.2)

◇高宮利行「ヴィクトリア朝前期の書物生産における Medievalism - Henry Shaw、Owen Jones、Henry Noel Humphreys を中心にして」『藝文研究』(58):201-188(1990)
 Shaw、Jones、Humphreys という「19世紀半ばの書物生産に携わったイギリス人で、Medievalism と切っても切れない人物」の足跡をたどることによって、「この世紀半ばの書物生産と中世趣味、中世研究との関連について考察」する。「それぞれ違う個性の持ち主でもあった」が、「彼らに共通するのは、専門家以上の知識と技術をもって、中世の装飾写本や建築物に多大の関心を示し、またカラー図版による複製を出版する際、図案作成者としてデザインを手掛けたり、ジョーンズとハンフリーズに至っては中世風の装丁デザインにも才能を発揮したという点である。」こうした彼らによって、中世趣味の、装飾性の豊かな、優れた書物が多数生み出されていった。ただし、そのような書物の大量生産が可能になったのは、当時の印刷・製本分野における技術革新の影響も大きく、「Medievalism が産業革命と機械主義の行き過ぎへの不安と抵抗から、人間性を取り戻す運動として始まったにも拘わらず、逆に効率の良い工業技術が Medievalism の普及に力を貸す結果となったのは皮肉なことであった。」
◆本論文には図版が入っていないので、参考文献として挙げられている Ruari McLean の Victorian Book Design and Colour Printing. 2. ed.(Berkeley: Univ. of California Pr.,1972); Victorian Publishers' Book-Binding in Cloth and Leather.(London: Gordon Fraser,1974); Victorian Book-Bindings in Paper.(Berkeley: Univ. of California Pr.,1983) を参照しながら読むことを、お勧めします